大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)1382号 判決 1969年2月13日

上告人

成岡正久

代理人

西村寛

ほか二名

被上告人

坂本竜夫

被上告人

江塚啓子

代理人

大坪憲三

主文

原判決を破棄する。

本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人西村寛の上告理由二について。

賃借権譲渡に賃貸人の書面による承諾を要する旨の特約は、賃貸借契約において賃貸人の承諾の有無についての法律関係を明確にし将来の紛争を避けることを目的とするものであつて、かかる合理的目的をもつてなされる法律行為の方式の制限についての合意は有効であると解すべきである(最高裁判所昭和四一年(オ)第四八三号、同四一年七月一日第二小法廷判決、裁判集民事八四巻七頁参照)。しかしながら、かかる特約がなされたにかかわらず賃借人が賃貸人の書面による承諾を得ないで賃借権を譲渡した場合であつても、前記特約の成立後にこれを変更し右書面による承諾を不要とする旨の合意が成立するか、または、前記書面による承諾を必要とした特約の趣旨その他諸般の事情に照らし、右譲渡が賃貸人に対する背信的行為であると認めるに足りない特段の事情が存する事実について、賃借人から立証がなされた場合には、賃貸人は前記特約に基づき賃貸借を解除することは許されないと解するのが相当である。

ところで、原審は、本件土地賃借権譲渡につき、昭和三九年六月三日、原判示の黙示の承諾のなされた事実を確定し、右によれば、上告人主張の本件土地賃貸借の解除権は発生しないと判断している。しかし、本件賃貸借において、賃借権を譲渡するには書面による承諾を要する旨の特約がなされたことは原審の確定するところであるから、原判示の前記黙示の承諾のなされるに際し右書面による承諾を不要とする旨の合意が成立したか、ないしは前記特段の事情の存在する事実について立証のなされた場合でなければ、上告人主張の解除権の発生を否定できないことは、前記の理由により明らかである。したがつて、原審が、右の事実を認定することなく、原判示の黙示の承諾の存在することを理由に、上告人主張の解除権の発生を否定したのは違法であり、原判決は、この点において破棄を免れない。そして、右解除権発生の有無については、なお前記の点について審理をする必要があるから、その余の所論に対する判断を省略し、右の点について審理をさせるため、本件を原審に差し戻すのを相当と認める。

よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 岩田誠 大隅健一郎)

上告代理人の上告理由

二、原審は「土地賃貸借契約書(甲四)によれば本件建物を処分するについては書面による上告人の承諾が必要であるが、承諾の有無が承諾の効力を左右する程の趣旨の約定とはにわかに解し難い」として上告人の契約解除を否認した。

甲四は上告人と被上告人竜夫との間に神聖に成立した本件土地賃貸借契約書であり被上告人竜夫は昭和三十一年六月一日以降右契約に基き本件土地を使用してきた。

第五条は民法第六一二条の規定と同一趣旨のものであつて本契約中極めて重要であることは極めて明瞭である。

従つて其の承諾を文書による承諾を求めている事も取引上極めて当然であるに拘らず、原判決が承諾の書面の有無は承諾の効力を左右する程の趣旨の約定とはにわかに解し難いとしたのは事実認定の違法があると言わねばならない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例